スイス公的年金、2026年にも赤字へ OECDが退職年齢改革、日本との違いは

2026年09月16日 12:07

画・2015年、平均寿命、男性80.8年、女性87.0年

高齢化と公的年金をめぐる課題を表現するイメージ。OECDはスイスに対し、基準退職年齢を将来的に平均寿命の伸びと連動させる改革などを提言している。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

OECDは最新の経済審査報告書で、スイスの2026年の実質GDP成長率を2.0%、一般政府財政収支をGDP比0.3%の黒字と予測し、短期的な財政基盤を高く評価しています。一方、長期では高齢化と給付拡大に伴う社会保障費の増大が課題となります。スイス連邦社会保険庁のシミュレーションによると、年13回目の年金支給を織り込んだ公的賦課方式年金は2026年にも赤字となり、2035年には赤字がGDP比約0.4%へ拡大する見通しです。OECDは65歳の基準退職年齢を平均寿命の伸びと連動させる改革を提言。マクロ経済スライドで給付水準を自動調整する日本とのアプローチの違いが浮き彫りとなっています。

本文
 経済協力開発機構(OECD)は2026年9月に公表したスイス経済審査報告書(OECD Economic Surveys: Switzerland 2026)において、同国経済の安定した景気拡大と健全な財政状況を評価する一方で、高齢化に伴う長期的な社会保障財政の持続可能性に強い課題を提起しました。

■GDP2.0%増、財政黒字でも長期に課題

 OECDの予測によると、スイスの実質GDP成長率は2025年の1.6%から2026年には2.0%へ伸びが高まる見通しです。消費者物価上昇率も0.6%と低水準に抑えられ、一般政府財政収支はGDP比0.3%の黒字を維持するなど、OECDは足元の財政状況を強固(strong)と評価しています。

 今回の年金財政をめぐる議論は、不況による一時的な税収不足から生じたものではなく、人口構造の変化に伴う給付支出の拡大という構造的な問題に起因しています。

■13回目の年金支給で2026年にも赤字転換

 スイスでは2024年3月の国民投票により、1階部分に相当する公的老齢・遺族年金(AHV)について、年間13回目(1カ月分増額)の年金支給が可決されました。一方、法定退職年齢を段階的に引き上げる提案は否決されました。

 OECD報告書が引いたスイス連邦社会保険庁(BSV/FSIO)のシミュレーションによると、この13回目の支給を織り込んだ公的賦課方式(public pay-as-you-go)部分は2026年にも赤字へ転落する見通しです。さらに、老齢年金支出が収入の伸びを上回って増大し続けることで、赤字幅は2035年までにGDP比約0.4%へ拡大すると試算されています。

■OECD「退職年齢を平均寿命と連動」

 現在、スイスの1階部分における基準退職年齢は65歳に設定されています。スイス政府自身は現時点で65歳を超える基準退職年齢の直接的な引き上げを決定しておらず、65歳を超えて働く際の年金加算増額や社会保険料免除枠の拡大など、自主的な就労延長を促すインセンティブ改革を中心に検討を進めています。

 これに対しOECDは、長期的な財政均衡にはより踏み込んだ制度改定が必要であると指摘。報告書内の長期シミュレーションにおいて、基準退職年齢を2034年までに67歳へ段階的に引き上げ、その後は平均寿命の伸びの3分の2を退職年齢に連動させる改革シナリオを示しました。なお、これはOECDによる提言・試算であり、スイス政府が67歳引き上げを決定したわけではありません。

■財源確保に向けVAT引き上げ案も浮上

 財源の確保に向けた税制面の議論も進んでいます。年金増額の財源として、付加価値税(VAT)の標準税率を現在の8.1%から0.4ポイント引き上げる案が出されており、OECD報告書によると2026年11月に国民投票が予定されています。

 OECDはさらに、長期的な債務の持続可能性を保つためには現在想定されている以上の税収確保が必要として、さらなるVAT引き上げを勧告。長期財政シミュレーションの一つとして、標準税率を計0.7ポイント引き上げて8.8%とする想定を置いています。

■日本は退職年齢ではなく、給付水準の自動調整を制度化

 一方、同じく急激な少子高齢化に直面する日本の公的年金制度では、スイスとは異なる自動調整メカニズムが導入されています。日本では2004年の制度改正により、公的年金全体の被保険者数の減少や平均余命の伸びに合わせて年金の改定率を抑える「マクロ経済スライド」が組み込まれました。

 厚生労働省が公表した「令和6(2024)年財政検証結果レポート」によると、モデル年金の所得代替率(現役男子の手取り収入に対する年金額の比率)は、2024年度の61.2%から、過去30年の平均的な経済推移を投影したケース(過去30年投影ケース)において、2057年度に50.4%へ低下して調整が完了する見通しとなっています。同ケースでは報酬比例部分(2階)の調整が2026年度に早期終了する一方、基礎年金部分(1階)の調整は2057年度まで長期間続く見通しであり、基礎年金の給付水準低下が国内の課題となっています。

■日本も2025年に制度改正

 さらに日本においては、2025年6月に成立した年金制度改正法により、被用者保険(厚生年金)の適用拡大や在職老齢年金制度の見直し、標準報酬月額上限の段階的引き上げ、iDeCoの加入可能年齢引き上げなどが決定しました。国会修正により、今後の社会経済情勢を見極め、基礎年金の給付水準低下が見込まれる場合には基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドを同時に終了させる措置を講じる規定も追加されています。なお、基礎年金の拠出期間を40年から45年へ延長する案については2025年改正での実施が見送られ、将来的な検討規定が盛り込まれました。

 スイスと日本は制度構造が異なるため単純な比較はできませんが、高齢化が進む中でコストをどのような手法で分担するかという課題は共通しています。スイスについてOECDが示したのは、税負担にとどまらず退職年齢そのものを平均寿命の伸びに連動させるアプローチです。一方、日本ではマクロ経済スライドで給付水準を調整する仕組みを採用しながら、基礎年金の調整長期化や適用拡大をどう扱うかが議論の軸となっています。今回のOECD勧告は、日本の年金制度とは異なる高齢化への対応策として比較材料となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)