国土交通省と厚生労働省は、6月21日、「当面の建設人材不足対策」を発表した。これは、建設業で人材が不足している状況を受けて、両省が認識を共有して対策の検討を行い、当面の対応としてとりまとめたものだ。
主なポイントは、「人材確保」「人材育成」「人材移動の円滑化」の3つの視点から、「建設業魅力発信キャンペーン」「戦略的コミュニケーション」の実施、地域における関係者間のネットワークの形成の促進、建設人材確保プロジェクトの実施、建設業における実践的な能力開発の推進をすることとしている。
建設業界は、アベノミクスの公共事業を柱とする財政出動で業績の回復が期待されている。今回の両省同時発表は、それを後押しする申し分のないタイミングでなされた印象を受ける。
しかし、実は業界にとって喜ばしい内容ばかりでない。人材確保施策の最後に盛り込まれている「社会保険未加入対策の更なる推進」がそれである。
建設業の社会保険の加入率は低く、下請企業を中心に、年金、医療、雇用保険について、保険料負担という法定福利費を適正に負担しない企業が多数、存在している。公共事業の元請企業でさえ、雇用保険で6%、健康保険および厚生年金保険では10%の企業が未加入状態にある(2010年度総合評定値登録業者「経営事項審査」)。また、雇用者数に占める被保険者数の割合は、雇用保険で61.0%、厚生年金保険61.9%に過ぎず、製造業の雇用保険92.6%、厚生年金保険87.1%と比べて各々3割前後低い。
こうした状況は、建設業界の人材不足を招く元凶となっているだけでなく、法定福利費を適正に負担している企業ほど競争入札で不利になるという不条理を引き起こしてきた。
国土交通省では事態を重く見て、「社会保険未加入対策の具体化に関する検討会」を設置し、12年2月23日には、「建設業における社会保険未加入問題への対策について」をとりまとめている。
そこでは、12年度以降、順次、周知・啓発、加入指導、保険加入者(企業・労働者)の優先活用に重点的に取り組み、実施後5年を目途に企業単位では許可業者の100%、労働者単位では製造業相当の加入状況を目指すとした。
もともと元請企業が下請業者の保険加入状況を確認・指導することが制度上義務づけられていないほか、下請業者も将来の保証よりも日々の手取りを志向したり、自己責任の伝統があるなど、長年染み付いた業界の体質を変えるのは容易ではない。
今回のとりまとめは、社会保険を所管する厚生労働省を巻き込んだ国土交通省の社会保険未加入対策の本気度を示すものととらえることができる。(編集担当:坪義生)