2016年11月13日のバレンシアGP決勝をもって、MotoGP2016シーズンは幕を閉じた。2016年のMotoGPを語る上で欠かせないのはタイヤサプライヤーとレギュレーションの変更だろう。2015年をもってブリヂストンが退き、タイヤサプライヤーはミシュランのワンメイクとなり、ECUのソフトウェアは全車共通となった。
さらに、原則としてシーズン中のエンジン開発が不可となり、シーズン中に使用できるエンジンは7基に制限された。ただし、一部優遇措置も設けられており、「2013年以降に新規参戦し、ドライコンディションでの優勝がないメーカー」については年間のエンジン使用数は9基までとされ、原則として禁止されているエンジン開発も認められた。
このレギュレーション変更には各チーム・マシンの格差を是正する目的がある。ここ数年完全にレプソルホンダとモビスターヤマハMotoGPの争いになっていた最高峰クラスだが、この2強状態を打破できるかが今季のポイントでもあった。
近年のMotoGPにおいて、その主役となっているのはレプソルホンダのマルク・マルケスと、モビスターヤマハMotoGPのホルヘ・ロレンソ、バレンティーノ・ロッシの3選手だ。
M・マルケスは2013年、2014年に2連覇を達成、J・ロレンソは2015年の覇者であり、V・ロッシは2014年、2015年と連続で年間ランキング2位を獲得している。2016年シーズンでもこの3人がチャンピオンシップ争いを演じることになるのは疑いようがなかった。
2016シーズン前半(第9戦ドイツGPまで)好調だったのはJ・ロレンソだった。開幕戦のカタールGP、第5戦のフランスGP、第6戦のイタリアGPで優勝。第3戦のアメリカズGP、第4戦のスペインGPでも2位と出だしは絶好調だった。また、チームメイトのV・ロッシは第4戦のスペインGP、第7戦のカタルニアGPで優勝。ライバルのM・マルケスも第2戦のアルゼンチンGP、第3戦のアメリカズGP、第9戦のドイツGPで勝利し、前半戦は3強が星を分け合う形となった。
だが、シーズン序盤好調だったJ・ロレンソの勢いは徐々に落ち始めた。第7戦のカタルニアGPでは、不運にもドゥカティのアンドレア・イアンノーネに突っ込まれ、転倒リタイア、ノーポイントでレースを終えた。続く第8戦オランダGP、第9戦ドイツGPは苦手なウェットコンディションでレースが荒れたこともあり戦績は下位に沈んだ。第7戦以降、J・ロレンソは完全に勢いを失い、最終戦まで優勝を見ることはなかった。
J・ロレンソが奮わない中、好調をキープし続けたのがM・マルケスだった。M・マルケスは第2戦・第3戦で連勝、第6戦から第8戦は3連続2位を獲得し、第9戦では優勝、その後第14戦まで優勝することはなかったが、上位をキープしてポイントを加算し続けた。そして、年間王者に王手をかけた第15戦の日本GPでは、ライバルのJ・ロレンソ、V・ロッシが揃って転倒リタイアを喫したため、年間チャンピオンを予想外にあっさりと決めた。
また、V・ロッシも第7戦以降の優勝はなかったものの、第10戦以降は第15戦日本GPを除きすべて4着以上でフィニッシュし、年間2位の座を獲得した。
2016年シーズンは前半戦こそ三つ巴の戦いとなったが、後半は失速するJ・ロレンソとコンスタントにポイントを重ねるM・マルケスの差が浮き彫りになった。2016年シーズンのM・マルケスは圧倒的な速さを見せるというよりも、安定した走りで優勝はせずとも上位をキープし続けた。M・マルケスが今季リタイアしたのは第16戦のオーストラリアGPのみ。それ以外すべてのレースでポイントを獲得している。2016年のMotoGPでは完走率の高さが勝負の分け目となったと言ってもいいだろう。
年間2位のV・ロッシ、3位のJ・ロレンソはマシントラブルや転倒リタイアで共に4戦をノーポイントで終えている。年間優勝数を見るとM・マルケスは5勝、V・ロッシは2勝、J・ロレンソは4勝となっており、優勝数だけで見れば年間2位のV・ロッシよりも3位のJ・ロレンソの方が勝利数は多い。年間のポイントランキングを左右するのは優勝数ではなく、コンスタントにポイントを重ねる安定した走りだということをうかがわせる結果だ。
また、2016年シーズンで着目すべきは優勝者の数である。ここ数年、M・マルケス、V・ロッシ、J・ロレンソの3傑のいずれかが優勝し、年間優勝者数はさほど多くないパターンが多かったのだが、今季は年間で9人もの優勝者を出した。
M・マルケス、V・ロッシ、J・ロレンソに加え、第8戦ではジャック・ミラー(エストレージャ・ガルシア・0,0・マークVDS)、第10戦ではA・イアンノーネ、第11戦・第16戦ではカル・クラッチロー(LCRホンダ)、第12戦ではマーベリック・ビニャーレス(チームスズキエクスター)、第13戦ではダニ・ペドロサ(レプソルホンダ)、第17戦ではアンドレア・ドビツィオーゾ(ドゥカティ)が優勝し、2016年シーズンの後半は誰が勝ってもおかしくないという面白い展開となった。
常勝の3選手以外のダークホースの活躍にはレギュレーションやタイヤサプライヤーの変更、優遇措置によってチームの格差が縮まったことが考えられる。さらに、天候もレースの結果を大きく左右した。今季の後半戦を見る限り、来季は3強を追いつめる選手が台頭する可能性も高くなってきた。
2016年シーズン後半の展開の他に来季の展開を予測する上で欠かせないのがライダーの移籍だ。年間ランキング3位のJ・ロレンソはモビスターヤマハからドゥカティに籍を移し、ドゥカティはJ・ロレンソとA・ドビツィオーゾの体制になる。モビスターヤマハのJ・ロレンソの後釜にはスズキからM・ビニャーレスが移籍。モビスターヤマハはベテランV・ロッシと2年目のM・ビニャーレスというコンビで来季に臨む。
レプソルホンダは今季と同じくM・マルケスとD・ペドロサの体制。また、復活後の初優勝を手にしたスズキはドゥカティから移籍するA・イアンノーネとMoto2クラスから昇格するアレックス・リンスで来季を迎える(アレイシ・エスパルガロはアプリリア・グレシーニに移籍)。
2017年シーズンは選手の移籍によってチームの様相ががらりと変わる。新しい体制で来季に臨むチームが多い中、一歩抜け出すのは果たしてどのチームか。レースシズンは終わったが、来季に向けての開発はもう始まっている。来季の展開を予想するのは難しいが、それだけに楽しみも大きい。(編集担当:熊谷けい)