2016年の日本における音楽市場は、定額制音楽配信が大きく伸ばした。日本レコード協会のレポートによれば、1~9月期のサブスクリプション(定額制音楽配信など)の売上累計金額は145億1500万円となり前年同期比175%に及んだ。
2016年の日本における音楽市場は、定額制音楽配信が大きく伸ばした。日本レコード協会のレポートによれば、1~9月期のサブスクリプション(定額制音楽配信など)の売上累計金額は145億1500万円となり前年同期比175%に及んだ。しかし、音楽市場全体からみるとその割合はまだまだ小さく、同期の音楽ソフト売上累計金額1770億5000万円と比較すると10分の1にも満たない規模だ。一方グローバルの市場では、15年に有料音楽配信(ダウンロード配信や定額制音楽配信)が音楽ソフトを初めて上回り、主軸は有料音楽配信、そのなかでも定額制音楽配信へとシフトしている(ダウンロード配信は縮小傾向)。17年は日本もグローバルと同じ方向へ向かうと予想されるが、その速度は世界市場に比べて緩やかだ。日本の音楽市場における音楽ソフトの売上比率は世界でも突出して高く、こうしたガラパゴス化はSpotifyなど大手定額制音楽配信サービスが普及してもなお、頑健性を保つと考えられる。その理由とこれを崩そうとする動きについて詳しくみていく。
日本の今年1~11月期の音楽ソフト売上累計をみると2176億2300万円(前年同月比96%)となっており、15年(AWA、LINE MUSIC、Apple Music、Google Play Music、Prime Music)及び16年(Spotify)に開始した定額制音楽配信サービスによる侵食は最小限にとどまっている。その理由は、サービス全般での邦楽のラインナップの弱さにある。楽曲数3000万曲以上が主力となる定額制音楽配信サービスだが、どのサービスもこと邦楽の有名アーティストに関しては配信曲数が少ないのが現状だ。インプレス総合研究所の実施したリサーチによれば、定額制音楽配信サービスに対する不満で最も多かったのが「好きなアーティストの曲が配信されていない」の40.1%。2位が「楽曲数が少ない」の30.9%となっている。とりわけ最新曲に関しては、英米の週刊チャート上位曲の網羅率に比べ、ビルボードジャパンの上位曲配信数の少なさが目立つ。さらに、日本の音楽ソフト売上比率をみると(1~11月期)、邦楽:洋楽が91:9となっており、圧倒的に邦楽に偏っていることがわかる。こうしたことから消費者は、定額制音楽配信サービス加入の有無に関わらず、欲しい曲がないケースではCDやダウンロード配信により手に入れるしか選択肢がなくなる。日本では、レーベルに所属するアーティストなどで定額制音楽配信サービスでの配信を許諾していないケースが多くみられ、こうしたことが日本独自の市場構造を維持していると考えられる。
ただし、このまま日本の音楽市場はガラパゴスを維持できるかというと、必ずしも安泰とはいえない。日本は世界2位(約3300億円)の音楽市場、そして定額制音楽配信サービスの利用率は9.1%(7月時点、インプレス総合研究所)とサービスの伸びしろは大きい。プラットフォーム側は、日本の音楽市場での「少数のアーティストに売上が集中する」といった傾向を把握し、ガラパゴスを切り崩そうとする動きが高まっている。9月に上陸した世界最大手Spotifyは、全世界がマーケットとなることによるアーティスト側のメリットを武器に、サービス拡充を図る。一方、和製定額制音楽配信サービス大手のAWA普及に注力しているエイベックスは、「アーティストが定額制音楽配信サービスに楽曲を提供するのはまだ先」という冷静な視点を持ちつつ、ライブやデジタル配信に軸足をシフトする準備を着々と整えている。定額制音楽配信サービスの拡大では市場全体が活性化する可能性があり、たとえば13年にSpotifyが上陸したドイツでは、15年の市場全体の売上増加率は13年の3倍となっている。また、カドカワの調査では消費金額の年間平均でライブ(3万5775円)がCD(1万1979円)を上回っているというデータもあり、各領域のプレイヤーが模索しながら相乗的な拡大を続けると予測される。(編集担当:久保田雄城)