訪日客6000万人・消費15兆円へ 政府の観光政策は「人数」から地域経営重視へ

2026年08月27日 12:48

画・新型コロナウイルスの影響、訪日客意識調査。旅程の変更はしなかった、96%など。

スーツケースを手に移動する旅行者。政府は第5次観光立国推進基本計画で、2030年に訪日外国人旅行者数6000万人、旅行消費額15兆円を目指す(写真はイメージ)

今回のニュースのポイント

政府は、2030年に訪日外国人旅行者数6000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円を目指す「第5次観光立国推進基本計画(令和8〜12年度)」を閣議決定しました。2025年の訪日外国人旅行消費額が速報値で9.5兆円(経済波及効果約19兆円)に達し、自動車産業に次ぐ「第2の輸出産業」として確立するなか、新計画では単なる訪日人数の拡大にとどまらず、住民生活の質の確保との両立に取り組む地域を100地域創出する目標を明記。「人数」から「地域経営と持続可能性」を重視する方向へ観光政策の軸足が移行しています。

本文
 日本の観光政策が大きな転換期を迎えています。政府は、今後の観光立国推進の指針となる「第5次観光立国推進基本計画(令和8〜12年度)」を閣議決定しました。2030年の目標として訪日外国人旅行者数6000万人、訪日外国人旅行消費額15兆円を掲げる一方、新計画では一部地域への過度な集中や混雑などの課題に対応し、持続可能な「観光地経営」を確立するための新たな評価軸が盛り込まれました。

■訪日客6000万人、消費額15兆円、国内消費30兆円を目標

 第5次基本計画では、2030年に向けた数値目標として以下の指標を設定しています。

・訪日外国人旅行者数:6000万人

・訪日外国人旅行消費額:15兆円

・訪日外国人1人当たり旅行支出:25万円

・国内旅行消費額:30兆円

・インバウンドの地方部延べ宿泊者数:1.3億人泊

単に「何人訪れたか」という人数の拡大のみを追い求めるのではなく、旅行消費額の拡大や地方部への誘客推進、滞在の質の向上を一体的に目指す構造となっています。

■すでにインバウンド消費は9.5兆円規模に到達

 日本市場の現在地を見ると、インバウンドによる経済的インパクトはすでに巨大な規模へ成長しています。観光庁のデータによると、2025年の訪日外国人旅行消費額(速報値)は9.5兆円に達し、コロナ前の2019年(4.8兆円)と比べて96.4%増と大幅に拡大しました。

 観光庁は訪日消費による直接的・間接的な経済波及効果を約19兆円と試算しており、約17.6兆円規模の自動車産業に次ぐ「第2の輸出産業」と位置付けています。2030年目標の15兆円達成時には、経済波及効果が約30兆円規模へ膨らむ見通しです。

■1人当たり消費額は15.9万円から22.9万円へ拡大

 消費額拡大を牽引しているのが、旅行者1人当たりの単価の上昇です。訪日外国人の1人当たり旅行支出は、2019年の15.9万円から2025年(速報値)には22.9万円へと44%増加しました。

 費目別の内訳を見ると、とりわけ宿泊費が1人当たり4.7万円から8.4万円へ78%増と急増。飲食費(3.5万円→5.0万円、45%増)、交通費、娯楽等サービス費も着実に伸びています。宿泊費を中心に幅広い費目で支出額が増加しており、訪日客1人当たりの消費単価が大きく上昇していることが分かります。

■「住民生活との両立」に取り組む地域を100地域へ

 今回の第5次計画で大きな特徴の一つとなるのが、「インバウンドの戦略的な誘客と住民生活の質の確保との両立」を政策の柱に据えた点です。

 具体的には、マナー違反や交通混雑といった局所的な課題に対応し、「観光客の戦略的な誘客と住民生活の質の確保との両立に取り組む地域」を全国で100地域創出する新目標を設定しました。オーバーツーリズム対策を単なる「観光客の抑制」として捉えるのではなく、国際観光旅客税などを活用した受入インフラの整備や、混雑緩和に向けた地方誘客・需要分散を推進する方針です。

■「住んでよし、訪れてよし」に加え「働いてよし」の観光産業へ

 さらに新計画では、従来の「住んでよし、訪れてよし」という観光まちづくりの基本標語に加え、「働いてよし」の観光産業の実現が方向性として明記されました。

 観光産業における深刻な人手不足に対応するため、生産性向上や持続的な賃上げ、就労環境の改善を推進。具体的指標として、「宿泊業が創出した付加価値額」を2024年度の4.3兆円から2030年に6.8兆円へ引き上げる目標を設けています。

■観光立国、「人数」だけでは測れない段階へ

 かつての観光政策は「いかに多くの旅行者を呼び込むか」という人数の増加が最優先の指標でした。しかし、第5次基本計画が示したのは、人数、消費額、地方部への波及、住民生活との調和、働く環境、産業の生産性を総合的に評価する多角的な観光地経営のフレームワークです。

 「6000万人達成」という目標の可否を超えて、観光が地域社会と住民生活にどのような持続的価値をもたらすのか。日本の観光政策は、その質と経営手法を問われる新たなステージに入っています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)