AI利用に起因とみられる苦情476件 チャットボット「すぐ解決」36.5%、企業の効率化に課題

2026年09月08日 06:48

画・社外で仕事をする人は55% 柔軟な働き方の推進結果は?

企業の顧客対応ではAIやチャットボットの活用が広がる一方、消費者の問題解決につながる対応設計も課題となっている(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

内閣府消費者委員会がまとめた「消費者と事業者の望ましいコミュニケーションの在り方についての調査報告(案)」で、企業の顧客対応へのAI導入やデジタル化が進む一方、消費者との間に新たなミスマッチが生じている実態が浮き彫りとなりました。全国の消費生活センター等に寄せられたAI利用関連の相談は2021年度の207件から2025年度には774件へ増加し、うちAI利用が原因で苦情が発生しているとみられる事例も476件に上っています。チャットボットの利用で「すぐに解決した」回答は36.5%にとどまる一方、25.5%が解決を「あきらめた」と回答。企業が求める業務効率化と顧客の問題解決との間に生じる課題を整理します。

本文
 企業のカスタマーサポートにおいて、AIやチャットボット、FAQの導入による業務効率化や24時間対応が進んでいます。しかし、その一方で「人間による対応へたどり着けない」「複雑な事情を理解してもらえず解決に至らない」といった消費者側の不満も顕在化しています。

 内閣府消費者委員会が取りまとめた「消費者と事業者の望ましいコミュニケーションの在り方についての調査報告(案)」では、顧客対応のデジタル化に伴うコミュニケーションのミスマッチが詳細に分析されています。

 全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)に登録された、接客対応に関する相談のうち、AIを利用した顧客対応やカスタマーサービス等に関連した相談件数は、2021年度の207件から、2022年度241件、2023年度317件、2024年度550件、2025年度には774件へと増加傾向にあります。この内数として、特に顧客対応やカスタマーサービスにAIを利用していることが原因で苦情が発生していると考えられる事例を抽出した件数についても、2021年度の142件から2025年度には476件へと拡大しています。報告書案では、インターネット接続の解約で電話しようとしてもつながらない事例や、AIの案内に従っても希望する問い合わせ先に到達できない事例などが紹介されています。

 こうした実態は、民間調査のデータとも整合しています。報告書案が引用している「コールセンター白書2025」(リックテレコム刊)の調査結果によると、事業者に問い合わせを行った際、チャットボットで「すぐに問い合わせフォームやメールだけで解決した」と回答した人は36.5%にとどまりました。有人チャット(48.0%)やメール(46.5%)と比較して低い水準です。一方で、チャットボット利用者の25.5%が「あきらめた」と回答しており、約4人に1人に相当します。

 ただし、このデータは「AI対応そのものが悪である」ことを意味するものではありません。調査によると、商品やサービスに疑問や不安が生じた際、消費者の9割以上が問い合わせを行う前に「まずは自分で調べる」と回答しています。消費者側にも、問い合わせ前にまず自分で調べて問題解決を図ろうとする傾向があり、デジタル化そのものが否定されているわけではありません。

 問題となるのは、自己解決できなかった際、次の適切な問い合わせ手段(人間による対応等)へ円滑に移行できる導線が設計されているか否かです。

 企業にとって、チャットボットやFAQの充実は、人件費の抑制や24時間対応、消費者が手軽に利用できるといったメリットをもたらします。一方で、明確な答えが存在するテクニカルサポートなどはチャットボットに向いているとされる反面、複雑な個別対応が必要な場面で一律にAIへ誘導した場合、問題が未解決のままとなり顧客満足度を損なう可能性があります。

 報告書案が提示する調査(アルティウスリンク調べ)では、カスタマーサポート利用時に不満やストレスを感じた消費者の66.2%が、継続または追加の購入を見合わせた(購入中止、他社乗り換え、利用頻度縮小など)と回答しています。顧客対応の効率化を進める際には、単なる人件費抑制だけでなく、問題解決や顧客満足との両立も経営上の重要な論点となります。

 さらに見落とせないのが、製品やサービスに不満を感じても63.8%の消費者が「特に行動に移さない(企業に伝えない)」と回答している点です(コールセンター白書2025)。そのため、企業側から見た問い合わせや「お客様の声」の減少が、そのまま不満の減少を意味するとは限りません。報告書案は、自己解決チャネルが機能している可能性がある一方、不満や要望を持ちながら事業者へ働きかけないサイレントカスタマーが増えている側面も考えられるとしています。

 報告書案は、人間による対応へすべて戻すことを推奨しているわけではありません。電話、メール、有人チャット、チャットボット、FAQなどのメリット・デメリットを整理した上で、問い合わせ内容(コンタクトリーズン)や顧客の属性に応じた「ベストミックス」を追求することの重要性を指摘しています。また、AIエージェントに関する研究(95本の論文、82,751人を対象としたメタ分析)を引き、AIを人間に置き換えるのではなく「人間の対応を支援する位置付け」として活用する方が、より良好な顧客価値を生むとの知見も紹介しています。

 デジタル化やAI活用が進む時代だからこそ、単に問い合わせ件数の削減や自動化の割合だけでなく、多様なチャネルを最適に組み合わせ、消費者の問題を最後まで解決できたかも企業の顧客対応を測る重要な視点になりそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)