プライベートクレジット3兆ドル規模に拡大 日銀、融資競争で「与信基準の一部緩和」を指摘

2026年09月25日 18:47

日銀レポートイメージ

プライベートクレジット市場の構造変化を示すイメージ。市場が3兆ドルに迫る規模へ拡大する一方、融資競争によるスプレッド縮小やコベナンツ緩和、PIKの増加、融資先の多様化などが進み、日本の金融機関との接点も広がっている。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

日本銀行は9月、プライベートクレジット(PC)ファンドの拡大とリスク特性の変化を分析した論考(日銀レビュー)を公表しました。PCファンドは、主に中堅・中小企業などへ銀行を介さず直接融資を行うファンドです。米国を中心に市場拡大が続き、企業向けや不動産・インフラ向けなどを合わせた運用資産残高は3兆ドルに迫る規模となっています。一方で、急速な資金流入に伴い案件獲得競争が激化しており、執筆者らは融資スプレッドの縮小やコベナンツ(財務制限条項)の緩和など「厳格な与信基準が一部で緩和されつつある可能性」を指摘しました。

本文
 日本銀行金融機構局の担当者は9月、プライベートクレジット(PC)市場の拡大と多様化について分析した論考「プライベートクレジットファンドの拡大と多様化について」(日銀レビュー)を公表しました。本レポートは執筆者個人による論考であり日銀の公式見解を示すものではありませんが、海外市場の構造変化と日本の金融システムへの波及経路を整理した内容となっています。

 PCファンドは、投資家から私募形式で資金を集め、主に信用力の低い中堅・中小企業などへ直接融資を行う仕組みです。世界金融危機後の低金利環境や銀行への金融規制強化を背景に米国を中心に拡大してきました。資料の図表によると、企業向け融資、不動産デット、インフラデットなどを合算したPCファンドの運用資産残高(AUM)は長期的な増加が続いており、足元で3兆ドルに迫る規模となっています。

 従来、PCファンドは機関投資家から中途解約できない長期資金を集め、厳格な与信基準やコベナンツを設定してリスクを制御しながら高い利回りを狙う構造が中心でした。しかし近年、市場構造に変化が表れています。代表的な「ダイレクト・レンディング(直接融資)」戦略では、投資家が拠出を約定したものの未だ融資に振り向けられていない待機資金「ドライパウダー」が大幅に増加したまま高水準で推移しており、2026年6月時点でも3000億ドル近くに達しています。

 過剰な融資余力を背景にファンド間の案件獲得競争が激しくなった結果、融資スプレッドは縮小傾向をたどり、融資契約時のコベナンツの条項数も減少するなど緩和傾向が示されています。執筆者らは、借り手企業の交渉力が以前より強まったこともあり、従来の特徴とされた厳格な与信基準が一部で緩和されつつある可能性を指摘しています。

 融資先企業の信用力に関しても注視すべき傾向が示されています。利息の現金を期中支払わず満期に一括返済する「PIK(Payment in Kind)貸出」において、PEファンド投資先企業へのPCファンドの貸出を対象としたデータでは、既存ローンの途中からPIK条項を追加する「事後PIK(Bad PIK)」の比率が件数ベースで2022年の2%程度から2026年第2四半期には6%程度まで高まっています。執筆者らは、一部の融資先企業で手元流動性の枯渇といったリスクが顕在化している可能性に言及しています。ただし、現時点で融資先のデフォルト率が大幅に悪化しているとはみていません。

 また、融資先の業種構成では情報技術分野の割合が段階的に上昇しており、事業環境の変化が激しいソフトウェアやAIインフラ関連企業への融資拡大が指摘されています。海外当局の間でも、これらの業態が調整局面を迎えた際にデフォルト率が上昇するリスクが議論されています。

 さらに市場の多様化も進んでいます。特定の資産やキャッシュフローを裏付ける「ABF(Asset Based Finance)」ファンドは、自動車ローン、売掛金、航空機、インフラなど多岐にわたる資産を対象とし、潜在的な市場規模は5~6兆ドルと推計されています。ただし、現在のABFファンドの規模は潜在市場の数%程度にとどまります。また、個人投資家向けに月次や四半期で一定の解約を認める「セミリキッド型」ファンドの台頭により、従来の機関投資家中心のクローズドエンド型とは異なる流動性管理やリスク伝播の可能性が生じています。

 日本の金融機関にとってもPC市場は無視できない存在となっています。日本の銀行、生命保険会社、年金基金などはオルタナティブ投資の一環としてPCへのエクスポージャーを拡大しているほか、大手銀行を中心にファンド向けファイナンス(信用供与)を通じても連関性を強めています。レポートは、企業の信用リスクに加え、ABFの裏付資産リスクや流動性リスク、業種集中リスクなどを多面的に監視し、日本への影響を注視していく重要性が高まっていると結んでいます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)