日本製紙、熊本・八代工場の印刷用紙・パルプ事業を終了 地震被害で復旧困難、通期400億円の最終赤字予想

2026年11月06日 15:12

今回のニュースのポイント

日本製紙は2026年11月6日、熊本地震で甚大な被害を受けた八代工場について、主要設備の全面的な補修・更新には3~4年程度を要すると見込み、グラフィック用紙・パルプ事業の終了と設備の再稼働断念を決定しました。工場全体は閉鎖せず、家庭紙計画の再検討や国産材を活用した新事業や他社との協業を模索します。また、米国子会社NDPのタンク倒壊事故や震災損失約200億円を織り込み、2027年3月期通期の純損益は400億円の赤字を見込みます。

本文
 日本製紙は2026年11月6日の取締役会において、熊本県八代市の八代工場におけるグラフィック用紙・パルプ事業を終了することを決議しました。同工場は2026年7月の「令和8年熊本地震」で広範囲にわたり生産設備や建屋に甚大な損傷を受け、稼働停止が続いていました。詳細な設備診断の結果、主要設備を全面的に補修または更新する場合、工期は概算で3~4年程度を要し相当規模の費用が必要となるため、原状復旧は極めて困難と判断し設備の再稼働を断念しました。同社は同日、八代工場の被災や米国子会社の事故影響を織り込み、2027年3月期通期の連結業績予想を公表し、親会社株主に帰属する当期純損益が400億円の赤字に転落する見通しを明らかにしました。

 今回の決定に伴い、八代工場で被災以降稼働を停止している全ての抄紙機やパルプ設備、関連設備は再稼働しません。対象となる抄紙機は、上質紙を生産する4号抄紙機(年間生産能力3万5,000トン)、上質紙やPPC用紙を手がける6号抄紙機(同6万6,000トン)、新聞用紙やPPC用紙を担うN1抄紙機(同11万トン)の3基です。対象製品の供給については、他工場への移抄を進めるほか、一部製品は他社への生産委託や生産終了を予定しています。同社は中期経営計画2030で、需要減少が続くグラフィック用紙の生産拠点集約を重点施策として掲げています。今回の決定は、震災による甚大な設備被害を踏まえ、既存の構造改革方針に沿って生産拠点の再編を進めるものです。

 一方で、今回の決定は八代工場全体の閉鎖を意味するものではありません。同工場で新設を予定していた家庭紙事業については、地震被害を踏まえて建設工事を一旦停止し、スケジュールや事業性を再検討したうえで、2026年度中を目途に方針を決定する予定です。さらに、約33万平方メートルの広大な敷地やインフラ、八代港の物流条件、長年培った九州地域の木材資源サプライチェーンを活かし、国産材の利活用をはじめとする新事業や他社との協業を模索します。また、従業員については本人の意向や事情に配慮し、グループ内での配置転換などを通じて雇用確保に最大限努めます。協力会社とは事業や雇用への影響を確認して必要な対応を協議し、熊本県や八代市などの関係機関とも連携する方針です。

 同日発表された2027年3月期第2四半期(4~9月)連結決算は、売上高が前年同期比7.3%増の6,323億円、営業利益が同92.1%減の7億円、経常利益が同92.6%減の6億円、親会社株主帰属中間純利益が同597.6%増の53億円となりました。新規連結子会社や円安効果により増収を確保したものの、営業利益は前年同期の90億円から急減しました。国内事業の営業利益が価格修正などにより前年同期の104億円から121億円へ増益となった一方、海外事業の営業損益が前年同期の14億円の赤字から114億円の赤字へと悪化したことが響きました。なお、最終黒字53億円の計上には、リンテック株式の売却益など約380億円の特別利益が寄与しています。

 営業利益の急減を招いた主因は、生活関連事業を中心とする海外拠点の業績悪化です。なかでも米国連結子会社の日本ダイナウェーブ・パッケージング(NDP)では、2026年5月に発生した工場のタンク倒壊事故に伴い、薬品洗浄や設備修繕、操業休止を余儀なくされました。さらに北米での競争激化や製品市況軟化が重なり、同社は通期で約210億円の営業損失を計上する見通しです。中間期には事故対応費用など約22億円を特別損失に計上しました。また、豪州Opal社でも原燃料価格や労務費の上昇が利益を圧迫しました。同社はOpal社の製袋事業譲渡など構造改革を進めていますが、海外でのコスト高と不測の事故が連結収益の重荷となっています。

 2027年3月期の通期連結業績予想について、同社は売上高1兆2,200億円(前期比2.3%増)、営業損失50億円(前期は252億円の黒字)、経常損失130億円(同231億円の黒字)、親会社株主帰属当期純損失400億円(同117億円の黒字)を見込みます。8月時点では被害算定が困難として予想を未定としていましたが、今回合理的な算定が可能になったとして開示しました。通期では熊本地震に伴う損失約200億円(中間期計上の約151億円を含む)、NDP事故に伴う災害損失約110億円(中間期計上の約22億円を含む)、Opal社の構造改革費用を特別損失に織り込んでいます。なお、年間配当予想は中間5円、期末予想10円の合計15円で据え置いています。

 震災による生産拠点の被災と海外事故という打撃を受けた日本製紙にとって、今後の焦点は八代工場の再生構想と海外事業の再建にあります。八代工場においては、従業員の生活安定と協力会社との関係を維持しながら、強みである国産材調達網を活かした持続可能な新事業を構築できるかが問われます。また、NDPのタンク倒壊事故に関しては、現時点で合理的な算定が困難な訴訟や当局調査に伴う将来的な影響が特別損失に含まれておらず、不確定要素として残されています。需要構造の変化に対応したグラフィック用紙の生産拠点集約を進め、収益力をいかに立て直し、財務基盤の安定を図るかが、同社の中長期的な経営課題となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)