【2016年振り返り】「定額読み放題サービス」が市場をけん引 マンガや雑誌で紙から電子への代替進む

2016年12月31日 11:17

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電子書籍の市場規模は書籍・雑誌とも拡大を続けており、インプレス総合研究所が7月に発行した「電子書籍ビジネス調査報告書2016」によれば、15年度の国内電子書籍の市場規模は1584億円。前年度の1266億円から25.1%増となっている。

 2016年の電子書籍市場でインパクトが大きかったものといえば、やはり「定額読み放題サービス」の台頭だろう。まず、8月3日に米Amazonによる定額読み放題サービス「Kindle Unlimited」が上陸し、多くのユーザーの読書体験を変えた。13万冊以上という圧倒的なコンテンツ数を誇る同サービスの登場により、それまで「紙派」だったユーザーの電子書籍に対する潜在需要が掘り起こされたかたちだ。これに続き楽天の「楽天マガジン」など有力定額読み放題サービスが開始。これらによる日本の電子書籍市場への影響はどうだったのだろうか。定額読み放題以外のモデルの現状もふまえてみていきたい。

 先日発表された昨年の国際学習到達度調査(PISA)で、日本は「読解力」の項目で前回(3年前)調査時より順位を大きく下げた(4位から8位)。若者の読解力低下の要因としては長文を読む機会の減少が指摘されている。実際、書籍の出版は年々減少し続けており、出版不況の加速には歯止めがかからない状態だ。日販が発表した16年4~9月期連結業績では売上高が前年同期比2.7%減の2970億円、営業利益は33.6%減の7億円だった。一方で電子書籍の市場規模は書籍・雑誌とも拡大を続けており、インプレス総合研究所が7月に発行した「電子書籍ビジネス調査報告書2016」によれば、15年度の国内電子書籍の市場規模は1584億円。前年度の1266億円から25.1%増となっている。

 ただし、そのうち81%にあたる1277億円をコミックが占めているほか、電子雑誌に関しても前年度の66.9%増の242億円となっており、Webページ/サービスにおける読みもののコンパクト化からも「長文を読む機会の減少」は否定できない。ジャストシステムが9月に実施した「電子書籍利用における実態調査」によれば、「電子書籍を利用したい理由」の上位に「本の置き場所に困らない」(64.5%)、「何冊もの本を一度に持ち運べる」(57.3%)、「いつでも好きなときに読める」(44.4%)等があり、電子書籍が通勤時などの隙間時間にもスマホやタブレットで読むことができるコミックや雑誌と相性がよいことがうかがえる。特に雑誌では、店頭での紙媒体の販売が落ち込むなか、読みたい部分だけを読めて、古い雑誌が溜まることがないといった電子雑誌の利便性から、紙から電子への代替が進んでいると考えられる。

 電子書籍市場の成長を支えた定額制の読み放題サービスでは、Amazonによる「Kindle Unlimited」に続き、楽天やブックウォーカーなどが雑誌やコミックに特化した読み放題サービスも相次いで開始。9月初頭に「Kindle Unlimited」の対象から急遽外された人気コミックなどの需要を取り込んでいる。「利用している読み放題サービス」で最も多かったのは「Kindle Unlimited」の41.5%だが、それに次ぐ「楽天マガジン」が40.2%、「ブックパス」、「Yahooブックストア読み放題」がともに31.7%となっており、同じユーザーが複数のサービスを利用していることも含めて、サービスの利用比率が分散していることがわかる。

 低価格の定額読み放題サービスが市場を席巻したかのようにみえるが、実は他の選択肢、「個別課金モデル」や「無料モデル」も健在だ。個別課金モデルに関しては、前述ジャストシステムの調査で、定額読み放題の25.0%を超える41.1%の人が利用を検討していることが示されており、根強い人気がうかがえる。また、課金に抵抗のあるユーザーなどでは、無料アプリ/サービスを利用するケースも目立つ。前述インプレスの調査によれば、スマートフォンユーザーにおける有料の電子書籍利用率が16.5%だったのに対し、無料のみの利用率が25.4%となっている。無料マンガアプリ/サービスの利用率は、スマートフォン調査で28.6%、PC調査で14.1%となっている。無料モデルでは書籍の無料連載でユーザーを集め、広告収入や有料販売・課金など複数のビジネスモデルの組み合わせによりマネタイズしている。インプレスによれば、15年度におけるマンガアプリ広告市場規模は前年の2.9倍にあたる41億円。さらには16年度その約2倍の85億円に達する予測となり、市場は堅調に拡大していることがわかる。電子書籍市場は全体として拡大しつつも、それぞれの分野を侵食し合うことなく伸びており、今後も同様の傾向が続くと予想される。(編集担当:久保田雄城)