量子コンピューターを製品設計へ 三菱電機、製造業向け「量子CAE」に前進

2026年08月24日 14:34

三菱電機

量子コンピューターを製造業の製品設計・解析に活用する「量子CAE」のイメージ。三菱電機とQunaSysは、量子計算の実行コスト削減と精度向上につながる2つの基盤アルゴリズムを開発した(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

三菱電機はQunaSysと共同で、製造業の製品設計・開発で使われるCAEに量子コンピューターを活用するための2つの基盤アルゴリズムを開発しました。大規模な行列データを量子コンピューターで扱いやすくすることで計算コストを削減するとともに、量子回路の設計に必要なパラメーター計算を安定化し、精度向上につなげます。今後は流体、熱、構造、電磁界解析など実際の製造業で使われるCAEへの適用を進め、「量子CAE」の実現を目指します。

本文
 量子コンピューターを、製造業の製品設計や開発現場へ活用する取り組みが一歩前進しました。三菱電機は24日、量子コンピューター系スタートアップのQunaSys(キュナシス)と共同で、製品の設計・開発に使われるCAE(Computer-Aided Engineering)への量子コンピューター活用に向けた2つの基盤アルゴリズムを開発したと発表しました。

 CAEとは、コンピューター上で流体や熱、構造、電磁界などの物理現象をシミュレーションし、製品の設計条件の探索や性能評価を行う技術です。例えばモーターや自動車部品などの開発において、試作回数を減らし効率的に設計を進めるうえで欠かせないツールとなっています。

 ここで使われる量子コンピューターは、従来のコンピューターとは異なる量子力学の性質を利用して計算を行う次世代の計算機です。特定の計算では従来のコンピューターよりも高速に処理できる可能性があり、材料開発や複雑なシミュレーションなどへの産業利用が期待されています。

 近年、製品の高性能化や高機能化に伴い、製造現場では大規模かつ高精度なCAEへのニーズが高まっています。CAEで扱う物理シミュレーションの多くは大規模な行列計算として表されるため、量子コンピューターの計算能力を活用する「量子CAE」が注目されています。一方、これまでは量子計算の実行コストと計算精度の両面に課題がありました。

 今回、三菱電機とQunaSysが開発したのは、この2つの課題を解決するための基盤アルゴリズムです。

 1つ目は、大規模な行列データを量子コンピューターで扱いやすい形へ整理するアルゴリズムです。行列内の同じ値や出現パターンを整理し、共通部分を再利用して差分を組み合わせることで、無駄な重複を減らし、量子計算にかかる実行コストを削減します。2つ目は、量子回路の設計に必要なパラメーターを安定的に求めるアルゴリズムです。計算の向きを反転させた後に順序を戻す工夫により、従来の計算過程で問題となっていた数値的な不安定性を回避し、量子計算の精度向上を実現します。

 なお、本開発成果の一部は、科学技術振興機構(JST)のムーンショット型研究開発事業(目標6)の成果で、8月24日から開催される国際会議「AQIS 2026」で発表されます。

 もっとも、今回の成果によってただちに「量子コンピューターによる製品開発が完了した」わけではありません。三菱電機自身も今回の成果を「量子CAEの実現に向けた前進」と位置付けています。今後は、開発したアルゴリズムを流体解析、熱解析、構造解析、電磁界解析など、実際の製造現場で用いられる具体的なCAE課題へ適用し、検証を進めていく計画です。

 量子コンピューターを巡っては計算性能そのものの高さに注目が集まりがちですが、産業界での実装を考慮した場合に極めて重要となるのは「実際の製品開発やビジネスにどう組み込むか」という視点です。

 実際の製品設計への適用には今後の検証が必要ですが、複雑化する製品開発のシミュレーションに量子計算をどう組み込むのか。今回の基盤アルゴリズム開発は、量子コンピューターを製造業の設計・解析に活用する「量子CAE」の実現に向けた一つの取り組みとなります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)