人口1300万人減でも国内旅行は維持できる? 2040年「観光市場」の未来予測

2026年08月27日 15:05

画・京都の違法民泊の宿泊者数は修学旅行生並みの約110万人

人口減少が進むなか、国内旅行市場では旅行実施率の向上が需要維持の焦点の一つとなる。写真は京都の観光地(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

2040年に向けて日本の人口減少と高齢化が一段と進むなか、国内観光市場の先行きに関心が集まっています。人口が減れば旅行需要も縮小するという懸念に対し、国内宿泊旅行の「実施率」をコロナ禍前の水準まで引き上げることができれば、人口減少下でも国内宿泊旅行の延べ宿泊数を現在と同程度に維持できる可能性があるとの試算が提示されました。前じゃらんリサーチセンター長の沢登次彦氏による研究発表をもとに、人口減少時代の観光市場を「総人数」だけでなく「旅行する人の割合」という視点から整理します。

本文
 2040年に向けて、日本の社会構造は大きな転換点を迎えます。人口減少が進むなかで、国内旅行市場はどのような影響を受けるのか。需要の規模は人口の減少に連動してそのまま縮小していくのか。観光の未来を見通すうえで、「人数の減少」と「旅行する人の割合(実施率)」という二つの視点から検証する試算が示されています。

■2040年、日本人人口は約1300万人減少

 まず、今後の市場が置かれる大前提です。国立社会保障・人口問題研究所の推計などを基にした資料によると、2040年の日本人人口は2020年比で約1300万人減少(▲10.6%)し、総人口は約1.1億人になると見込まれています。

 そのうち65歳以上が全体の34.8%を占めるなど高齢化が進むほか、東京一極集中と地方の人口減少が進むことが示されています。2040年時点で、47都道府県中39道県において2025年比で10%以上の人口減少が予測されています。

■人口が減れば「旅行する人」も減るのか

 国内の観光市場や宿泊需要は、基本的に国内人口を基盤として成立しています。そのため、日本の人口が約1300万人減少し、過疎化が進むとなれば、「国内の宿泊需要も人口と同じ割合で縮小せざるを得ないのではないか」という問いが自然と浮かび上がります。

 こうした懸念に対し、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科兼任講師で前じゃらんリサーチセンター長の沢登次彦氏がまとめた「2040年 観光の未来予測」では、需要の規模を決めるのは「人口の絶対数」だけではないという視点が提示されています。

■旅行実施率49.3%を56.4%まで戻せた場合

 試算の中で最大のポイントとなるのが、国内宿泊旅行の「実施率」です。資料によると、2024年時点での日本人の国内宿泊旅行実施率は49.3%とされています。

 仮にこの実施率が49.3%のまま横ばいで推移した場合(ベース推計)、2040年の日本人による年間延べ宿泊数は「1億9,384万泊」まで減少すると試算されます。

 一方で、この旅行実施率をコロナ禍前の水準である「56.4%」まで持ち上げることができた場合(高位推計)、2040年の延べ宿泊数は「2億2,175万泊」を確保できるという推計が弾き出されています。これは、2023年実績の延べ宿泊数(2億2,308万泊)とほぼ同等の規模です。

■「人口」だけでなく「旅行する割合」を上げるアプローチ

 国内旅行の需要は人口だけでなく、旅行実施率や旅行回数、宿泊日数など複数の要素に左右されます。消費市場として見れば、これに1回当たりの旅行支出なども関係してきます。

 そのため、人口が10%減ったからといって、延べ宿泊数や市場の総量が自動的に10%縮小するとは限りません。旅行から遠ざかっている層や旅行頻度の低い層が旅に出るような機会を創出し、実施率を押し上げることができれば、人口減による宿泊需要への影響を一定程度補える可能性があります。

 ただし、注意が必要なのは、実施率を過去の水準である56.4%まで実際に戻せるかどうかは確定した事実ではないという点です。本試算は政府による公式な将来予測ではなく、特定の条件を設定した場合のシナリオ分析として提示されたものです。

■2040年は高齢化・単身世帯・AI・気候変動も進行

 資料では、人口や実施率だけでなく、2040年の社会全体の多様な変化についても言及されています。

・65歳以上が全体の35%を占める高齢社会

・全世帯の40%超が単独(一人暮らし)世帯に

・東京一極集中と地方の人口減少が継続

・平均気温の上昇(20世紀末比で約1.4度上昇するシナリオなど)

・AIが生活や移動の基礎インフラとして定着し、AIネイティブ世代が台頭

 資料では、こうした社会変化を背景に、家族単位から「個人軸」への旅のシフトや、仕事と余暇が重なり合う職住旅融合、平日分散型の短期・高頻度な旅行、AIを活用した旅行提案などの可能性も示されています。

■人口減少時代、旅行実施率をどう高めるか

 人口減少が進む日本において、観光産業の成長や持続性を議論する際、「人口減少そのものを止めること」は容易ではありません。

 しかし、国内宿泊旅行の実施率が49.3%にとどまっている現状に目を向ければ、旅行実施率を高めることが、需要を考えるうえで一つの焦点となります。

 2040年の国内観光市場は、単なる人口の減少だけによって一方的に決まるものではありません。変化する生活様式や価値観に対応しながら、まだ旅に出ていない層へどのような「きっかけ」を提供できるのか。人口減少時代の観光戦略は、「人数を追う」ことから「旅行の動機と機会を創出する」ことへと、その問いを深めています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)