日本のマンションが今、大きく変わろうとしている。住宅メーカーの積水ハウスが名古屋で分譲した国内で初めて全住戸でネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(以下、ZEH)基準を満たす分譲マンション「グランドメゾン覚王山菊坂町」が完成し、4月の引渡しを前にメディアに公開された。これからの日本の集合住宅のあり方が大きく変わるかもしれないと話題を呼んでいる。では一体、このマンションの何が凄いのだろうか。
ZEHは新築戸建住宅においては一般的に普及し始めており、政府も2016年に発表した「日本再興戦略2016」の中で「2020年までにハウスメーカーなどの新築する注文戸建てで、住宅の過半数がZEHとなることを目指す」としており、経済産業省や環境省、国土交通省が普及対策を進めている。大手ハウスメーカーもこれに従って、新築物件の ZEHを推進しているが、中でも積水ハウスは群を抜いており、2017年度の同社の戸建てZEH比率は76%、2018年3月末現在で累積35,881棟という世界一のZEH供給実績を誇っている。
ところが、そんな ZEHのトップランナーでも、分譲マンションの全戸ZEHはこれまで実現できていなかった。その一番の理由は、住戸数に対して太陽光パネルの設置面積が不足してしまうからだ。さらに2018年5月まで国の集合住宅ZEHの定義がなく、ZEH補助金の対象外となっていたのだ。
しかし、国内の住宅着工戸数の約半数を占め、住宅のCO2排出量の約3割も排出している集合住宅を除外することは、片手落ちといわざるを得ない。このため、独自にパリ協定遵守を宣言する等、脱炭素化に力を入れる同社は、試行錯誤の末、それをついに実現したのが「グランドメゾン覚王山菊坂町」だ。名古屋市屈指の高級住宅地に建つ、この3階建ての邸宅型マンションは、全12戸すべてがZEH基準を満たしている。
太陽光パネルは本来、採光のために角度をつけて設置するのが常識とされているが、同社では戸建て向けに開発した技術を応用し、パネルをほぼ水平に配置することで設置数を増やすことに成功。全住戸ごとに平均4kWの十分なパネル容量を確保した。また、 LED照明等の各種省エネ設備はもちろん、窓のアルミ・樹脂複合サッシにアルゴンガス封入複層ガラスを採用する等によって、北海道などの寒冷地における省エネ基準と同等の断熱性能を実現。さらに燃料電池「エネファーム」まで搭載している。
ZEHといえば、補助金や光熱費の削減など、金銭的なメリットばかりが取り沙汰されることが多い。実際、一般的なマンションと比べて、このZEHマンションでは年間約12万円もの光熱費削減が望めると試算されている。しかし、積水ハウスの開発担当者によると、 ZEHマンションの本当の魅力は金銭面よりも「住みごこち」だという。冬の朝、目覚めたとき。外出先から帰宅したとき。実際に住んでみてから、日々の生活の中で、ZEHの快適さをしみじみと実感してもらえるはずだと自信を覗かせる。
光熱費をあまり気にせずに冷暖房を使用できるだけでも有難い。とくに超高齢社会に突入している我が国で社会問題となっている冬場のヒートショックや、真夏の室内での熱中症を減らすことにも貢献するかもしれない。
政府も2018年5月に集合ZEHの定義を公開すると共に補助制度も開始した。今回の「グランドメゾン覚王山菊坂町」を皮切りに、第二、第三の全住戸ZEHマンションが誕生してくることだろう。一度は政府にも「困難」とされた集合住宅のZEHが、数十年後には当たり前になっているのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)