今回のニュースのポイント
厚生労働省が公表した2025年の監督指導状況によると、全国の労働基準監督署が把握した賃金不払い事案は2万2,605件、対象労働者数17万3,016人、不払い総額128.6億円に上りました。指導等を経て110.0億円が支払われたものの、身近な勤怠管理における「時間の切り捨て」や「固定残業代」の誤った運用による未払いが実際に確認されています。労働時間の適正管理と制度の正しい理解が、企業・労働者双方に求められています。
■ 賃金不払い2万2605件、17万3016人に影響
厚生労働省がまとめた2025年の労働基準監督署による監督指導状況によると、全国で把握・確認された賃金不払い事案は2万2,605件、対象労働者は17万3,016人、不払い総額は計128.6億円に達しました。
労基署による監督指導などを経て、2万1,731件(96.1%)、16万7,828人(97.0%)について賃金の全部または一部が支払われ、支払額は計110.0億円(85.5%)となりました。一方で、874件、5,188人、18.6億円分については支払われませんでした。ただし、この「支払われなかった」数字には、2025年中に解決せず翌年へ持ち越された事案のほか、企業の倒産や事業主の行方不明によって支払いが困難となったケースも含まれており、すべてが不当な拒否に起因するものではありません。
■ 金額最多は保健衛生業27.1億円、件数では商業
業種別の動向を見ると、評価の基準によって最多となる業種が異なる特徴が浮かび上がります。
不払い金額で最も大きかったのは保健衛生業の27.1億円(全体の21.1%)で、次いで製造業の26.0億円(同20.2%)、商業の13.0億円(同10.1%)と続きました。対象となった労働者数でも、保健衛生業が4万7,033人、製造業が4万3,028人、商業が2万568人となり、保健衛生業が最多を占めました。
一方、監督指導の「件数」で見ると順番が変わり、商業が4,701件(同20.8%)で最多となり、製造業の4,370件(同19.3%)、保健衛生業の3,620件(同16.0%)となりました。賃金不払いの規模は、件数では商業、対象労働者数と金額では保健衛生業が最も多くなりました。
■ 「15分なら切り捨てていい」ではない
今回の発表において注目されるのは、公表された実際の是正事例です。厚労省は、身近な勤怠管理の運用ミスによって発生した不払いケースを具体的に示しています。
一つ目の事例は、自動車・同付属品製造業者における「労働時間の切り捨て」です。この事業場ではICカードを用いて労働時間を管理していましたが、始業直前および終業直後の15分間について、実際の業務の有無にかかわらず一律に切り捨てる処理を行っていました。労基署の指導を受けて実態調査を行ったところ、その15分間に業務に従事していた労働者が複数確認され、過去に遡って差額の割増賃金が追加で支払われ、一律の切り捨て処理は廃止されました。
この事例で問題となったのは「15分」という単位そのものではなく、実際に業務に従事していた時間まで一律に切り捨てていた点です。労働基準法上、労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。指示による業務はもちろん、着用を義務付けられた制服への着替えや業務後の清掃なども労働時間に該当します。実態として働いている時間を一律に切り捨てる運用は、不払い賃金を生み出す直接の原因となります。
■ 固定残業代でも「超えた分」は支払い必要
もう一つの代表例が、建設資材卸売業者で見られた「固定残業代(みなし残業代)」の誤った運用です。
この企業では、月20時間分の固定残業代を定額で支払っていました。しかし、20時間を超えて発生した時間外労働について「固定残業代を払っているから」という理由で時間管理を行わず、超過分の割増賃金を支払っていませんでした。さらに深夜労働に対する割増賃金も未払いとなっていました。労基署から労働基準法37条違反として是正勧告を受けた事業場は、過去に遡って労働時間を再計算し、差額を支払う対応をとりました。
この事例も、固定残業代制度そのものが違法というわけではありません。固定残業代を導入していても、実際の時間外労働や深夜労働に応じた割増賃金の額が固定残業代の額を上回った場合には、企業はその差額を支払う義務があります。また、基本給など通常の労働時間の賃金部分と割増賃金に当たる部分とを明確に判別できるようにする必要があります。
■ 是正されなければ「書類送検」も
厚労省資料では、是正勧告後も是正されず、捜査を経て書類送検に至った事例も紹介されています。
示された送検事例では、労働者7人に対して定期賃金合計約130万円を所定支払日に支払わなかった事業主について最低賃金法違反の疑いで書類送検されました。また、労働者2人に対する時間外・深夜労働の割増賃金約12万円の未払いについても、労働基準法違反の疑いで書類送検されています。いずれも是正勧告後に是正が図られず、捜査を経て書類送検に至っています。
賃金不払いというと企業の深刻な経営難や悪質な給与未払いを連想しがちですが、厚労省が示した是正事例には、勤怠時間の一律切り捨てや固定残業代の誤った運用による未払いも含まれています。企業側には実態に即した勤怠管理と賃金制度の再点検が、労働者側にも自身の給料明細と実際の労働時間が整合しているかの確認が求められます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













