今回のニュースのポイント
国内ガス大手・地方主要7社の2026年4~6月期を含む決算が出そろいました。大阪ガス、東邦ガス、北海道ガス、西部ガスホールディングス、静岡ガス、北陸ガス、広島ガスの7社では、本業の収益力を示す営業利益が揃って前年同期を下回る展開となりました。 原料価格の変動が販売価格へ反映されるまでのタイムラグや、春先の気温上昇による家庭用需要の低下、販売単価の下落などが利益を圧迫しました。一方、電力や国際エネルギー事業が伸びた企業もあり、再生可能エネルギーやDX(デジタルトランスフォーメーション)への先行投資も進んでいます。今回の決算からは、従来の都市ガス事業を基盤としながら収益源の多様化を進めるガス業界の姿が浮かび上がります。
本文
国内都市ガス大手および主要地方ガス7社の2026年4~6月期(一部中間期)連結決算が出そろいました。各社の決算を横断して比較すると、本業の収益を示す営業利益段階では7社すべてが前年同期比で減少(減益)する展開となりました。しかし、その要因を詳細に紐解くと、単なる原料高による苦戦という一言では括れない、複雑な収益構造と各社の戦略的アプローチの差が見えてきます。
■ ガス7社、営業利益は揃って減少
今回決算を発表した主要7社の業績動向(売上高、営業利益、営業利益増減率)は以下の通りです。
・大阪ガス: 売上高 4,780億円、営業利益 313億円(前年同期比 34.3%減)
・東邦ガス: 売上高 1,448億4,900万円、営業利益 76億4,000万円(同 61.5%減)
・北海道ガス: 売上高 380億3,900万円、営業利益 34億2,400万円(同 41.1%減)
・西部ガスHD: 売上高 606億4,200万円、営業利益 40億5,000万円(同 26.0%減)
・静岡ガス: 売上高 1,030億6,600万円、営業利益 88億2,800万円(同 10.4%減)
・北陸ガス: 売上高 148億6,000万円、営業利益 14億9,500万円(同 15.0%減)
・広島ガス: 売上高 223億5,300万円、営業利益 7億4,000万円(同 22.6%減)
(※静岡ガスは2026年12月期中間期決算、その他6社は主に2027年3月期第1四半期決算。集計対象の対象期間が異なるため絶対額の単純比較による順位付けではなく、前年同期からの方向性を比較)
会計期間や事業規模の差はあるものの、7社共通の現象として全社営業減益という結果が確認できます。ただし、この減益の背景には「価格反映のタイムラグ」「気候と需要」「営業外収益」「将来への先行投資」という複数の要素が絡み合っています。
■ 原料価格と販売価格の「時間差」が利益圧迫
複数社でみられた利益押し下げ要因の一つが、エネルギー原料価格の変動が販売単価へ反映されるまでの時間差、いわゆる「スライドタイムラグ」の影響です。都市ガス事業で導入されている原料費調整制度は、原料調達価格の変動を一定のタイムラグをもってガス料金に反映させる仕組みのため、調達価格の急変動期には一時的な損益の振れが生じます。
大阪ガスでは、国内エネルギー事業において原料・燃料価格の変動が販売単価へ反映されるまでのタイムラグが重荷となり、営業利益が34.3%減となりました。
東邦ガスの決算ではこの影響がより鮮明に表れています。第1四半期の原油価格(全日本CIF価格)は前年同期の1バレル75.1ドルから112.7ドルへと上昇し、為替レートも1ドル144.6円から159.6円へ円安が進みました。これにより、原料費調整制度に伴う原材料費と売上高の期ずれ影響が前年同期の「差益」から「差損」へ転換。売上高が10.3%減となったことに加え、営業利益は61.5%減、経常利益も52.0%減となりました。
また広島ガスでも、大口顧客を中心とした業務用や卸供給の伸びにより都市ガス販売量自体は2.6%増加したものの、原料価格の販売単価への反映時差が響き、主力のガス事業のセグメント利益が前年同期比70.2%減と大きく低下しました。エネルギー事業において「販売量が増えれば直ちに利益が増える」という単純な構造ではないことがうかがえます。
■ 暖かい春、家庭用ガス需要を押し下げ
もう一つの共通の要因となったのが、気温の推移に伴う需要の変動です。4~5月にかけて気温が高めに推移したことが、給湯や暖房を中心とする家庭用ガス需要に影響しました。
東邦ガスでは高気温影響などにより家庭用ガス販売量が前年同期比7.3%減少。西部ガスホールディングス(HD)でも平均気温の上昇等で家庭用都市ガス販売量が同6.9%減となりました。北海道ガスにおいても春先の気温上昇に伴って暖房需要が低下し、家庭用ガス販売量が同3.3%減少しています。
一方で、業務用の需要開拓などでカバーした企業もあります。北陸ガスは高気温による家庭用需要の減少があったものの、業務用顧客における設備の稼働率上昇が寄与し、都市ガス販売量全体では前年同期比15.7%増を記録しました。広島ガスも工業用や卸供給の伸びで全体販売量をプラスに保ちました。天候要因をどのセグメントで相殺できたかによって、各社の販売量の着地には違いが見られます。
■ 契約者は増えても、販売量は減る
今回の決算では、顧客基盤の広がりと実際のエネルギー使用量(販売量)の動きについて、東邦ガスのデータが象徴的な事例を示しています。
東邦ガスの第1四半期末における顧客数(配送受託含む)は、ガス・LPG・電気の合計で前年同四半期末比3万件増の313万4000件となりました。内訳を見ても、ガスが176万3000件(同0.4%増)、LPGが65万3000件(同1.2%増)、電気も71万8000件(同2.1%増)と、すべてのカテゴリーで契約件数を伸ばしています。
しかし、実際の販売量は以下の通り減少しました。
・ガス販売量: 7億6000万立方メートル(前年同期比2.4%減)
・LPG販売量: 11万1000トン(同2.5%減)
・電気販売量: 5億3200万kWh(同1.3%減)
顧客数が増加する一方、ガス、LPG、電気の販売量はいずれも前年同期を下回りました。顧客数の増加がそのまま当該四半期の販売量増加につながるとは限らず、気温や利用状況など複数の要因が業績に影響していることが分かります。
■ 「営業減益=最終減益」でもない
営業利益段階では7社揃って減益となったものの、営業外損益や投資収益を含めた最終的な着地(純利益など)を見ると、各社の財務・ポートフォリオの違いが表れています。
象徴的なのが西部ガスHDです。本業のガス料金単価下方調整や不動産事業の分譲マンション販売戸数減少により、営業利益は前年同期比26.0%減の40億5000万円にとどまりました。しかし、営業外収益において受取配当金が前年同期の4億8100万円から26億5500万円へと増加したことで、経常利益は同18.3%増の67億83百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益は同45.9%増の51億56百万円となりました。
静岡ガスも同様の傾向を示しています。ガス販売単価の下落などで営業利益は前年同期比10.4%減の88億2800万円となったものの、営業外損益において為替影響に伴う匿名組合投資利益(5億7300万円)を計上したことなどが寄与し、経常利益は同6.2%増の98億9500万円を確保。同社は年間配当予想を従来の43円から45円へと2円増額しています。
営業利益だけでなく、受取配当金や投資利益など営業外損益の動きによっても、各社の最終的な利益の方向に違いが表れています。
■ 電力・海外などへ事業領域を拡大
都市ガス以外へ事業領域を広げる動きも各社でみられます。
西部ガスHDでは、国際エネルギー事業の取引増加などを背景に「電力・その他エネルギー事業」の売上高が85億34百万円(前年同期比21.4%増)、セグメント利益が12億93百万円(同287.7%増)となりました。北海道ガスでも、暖房需要低下でガス売上高が前年同期比6.9%減となった一方、産業用分野での販売拡大により電力販売量が同3.8%増、電力売上高が同0.5%増の63億2000万円と堅調に推移しました。東邦ガスにおいても、電気の顧客数は前年同期比2.1%増の71万8000件となっています。
各社では都市ガス事業を基盤としながら、電力や海外エネルギーなどへ事業領域を広げる動きが続いています。
■ 東邦ガス、投融資870億円 戦略事業へ500億円
足元では、将来の事業基盤強化に向けた投資や戦略的経費を増やしている企業もあります。
東邦ガスは、2026年度(2027年3月期)の年間投融資計画として前期比46.7%増となる870億円を掲げています。このうち、都市ガスやLPGなどの「コア事業投資」に370億円を充てる一方、電気・再生可能エネルギー、エネルギーサービス、不動産、海外エネルギーなどの「戦略事業投資」には500億円を投入する計画です。第1四半期(4~6月)においても、導管建設や国内外の再エネ・ガスエンジン等へ223億円の投融資を実施しました。
北海道ガスにおいても、第1四半期に営業利益が41.1%減となりましたが、これはスマートメーターの導入普及やDX(デジタルトランスフォーメーション)施策の推進、人材への投資に伴う「戦略的経費」を積極的に投じたことが影響しています。
足元の業績を見つつも、将来の事業基盤強化や収益源多角化に向け、経営資源を振り向ける動きが進んでいます。
■ 通期予想据え置き相次ぐ、冬場需要が焦点
通期見通しでは、各社で従来予想を維持する動きが相次いでいます。
東邦ガスは通期の連結業績予想について、売上高6,700億円(前期比2.9%増)、営業利益190億円(同40.2%減)、経常利益250億円(同34.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益230億円(同26.9%減)とする従来計画を据え置きました。
大阪ガスは国内エネルギー事業での単価推移を織り込み売上高予想のみ2兆1,700億円(前期比6.9%増)へ上方修正しましたが、各利益予想は据え置いています。北海道ガス、西部ガスHD、北陸ガス、広島ガスも通期業績予想を維持しています。静岡ガスも通期業績予想は据え置いた一方、年間配当予想は43円から45円へ引き上げました。
都市ガス事業は、需要がピークを迎える冬期から春先にかけて売上および利益が大きく偏重する季節性を持っています。そのため、第1四半期(あるいは中間期)時点の営業減益をもって通期業績の成否を断定することはできません。
今後は、原油やLNG(液化天然ガス)の市況価格、為替相場の推移、スライドタイムラグの状況に加え、最需要期である冬場の気温と暖房・産業用需要の動向が通期業績を見る上でのポイントとなります。
■ 「ガス会社」の収益構造が変わり始める
ガス7社の決算では営業減益という共通の結果が確認されたものの、その背景は様々でした。原料価格と販売単価のタイムラグ、高気温による需要減、販売単価の下落、DXやインフラへの先行投資――それぞれ異なる要因が利益に影響を与えています。
一方、電力や国際エネルギー事業の拡大、再生可能エネルギーへの投資など、都市ガス事業を基盤としながら収益源を広げる動きもみられました。
短期的には世界的な市況や気温変化に影響を受けながらも、中長期でどのように事業ポートフォリオを多様化していくか。今回の7社決算は、変化を進める国内ガス業界の現在地を示す内容となりました。(編集担当:エコノミックニュース編集部)













