AIが「次の実験」を自分で決める NTT、半導体の成膜・評価を3倍高速化

2026年08月26日 09:33

NTT

AIとロボットによる半導体材料の自律実験をイメージした図(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

NTTは25日、AIとロボット技術を連携させた「自律成膜基盤」を開発し、半導体薄膜の試作・評価サイクルを従来の約3倍に高速化したと発表しました。次世代パワー半導体材料「β型酸化ガリウム(β-Ga₂O₃)」の成膜実験において、56回の自律探索で高品質化につながる成膜条件を見いだし、その条件をβ-Ga₂O₃基板上へ転用して高品質な単結晶薄膜の作製に成功。さらに、蓄積されたデータから「どのパラメータをどのように調整すべきか」という人が理解・実行できる成膜ルールを抽出・検証する手法を実証しました。

本文
 AI(人工知能)を画像生成や対話にとどまらず、自然科学の研究開発そのものの高度化・高速化に活かす「AI for Science」の取り組みが現実の材料研究で成果を上げ始めています。NTTは25日、AIとロボット技術を連携させた自律成膜基盤を構築し、半導体材料の実験サイクルを従来の技術者・研究者による運用と比較して約3倍に高速化させることに成功したと発表しました。

 半導体や新材料の開発現場では、要求される物性を得るために温度やガス流量など多様なパラメータを調整しながら実験を繰り返す必要があります。今回NTTが対象としたのは、次世代パワー半導体の材料候補として期待されるウルトラワイドギャップ半導体「β型酸化ガリウム(β-Ga₂O₃)」の薄膜作製(成膜)です。

 一連の自律実験システムは、成膜装置内でのウェハ自動搬送、光学手法による自動評価、そして評価結果から予測モデルを更新して次の実験条件を選ぶ「ベイズ最適化」を組み合わせることで実現しています。実験では、成膜温度、スパッタ電力、アルゴン(Ar)流量、酸素(O₂)流量という4つの作製条件をAIが探索。サファイア基板上で計56回の自律探索を実施し、薄膜の構造的無秩序さを示す指標(アーバックエネルギー:E_U)を大きく低減させた最適条件を導き出しました。

 さらにこの条件をβ-Ga₂O₃単結晶基板上での成膜に転用し、NTTによると、スパッタ法として世界初となる高品質なβ-Ga₂O₃単結晶薄膜の作製に成功したとしています。一連の研究成果は、8月13日付の英科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

 今回の発表で特に注目されるのは、AIによる条件探索にとどまらず、蓄積された実験データから人間が理解・転用しやすい「成膜ルール」を取り出した点です。従来の機械学習による材料探索では、最適な条件が提示されてもその調整手順が不透明(ブラックボックス)で、他の装置や条件へ応用しにくい課題がありました。

 これに対しNTTは、データの寄与度や相互作用を解析し、「各パラメータを順に調整し、最後に温度と酸素流量を重点的に調整する」といった人が実行可能な手順に整理。研究者がこの抽出されたルールに基づいて再最適化を行ったところ、指標(E_U)が182meVから163meVへとさらに低減し、ルールの有効性が確認されました。AIが自動で実験を進めるだけでなく、その結果を人間が理解できる手順として還元し、研究者が最終的な判断や再最適化に活かすという役割分担が示された形です。

 もっとも、今回の成果は研究開発・実証段階のものであり、半導体の量産工場における製造速度そのものを3倍にする技術や、β-Ga₂O₃パワー半導体の実用化・量産化が即座に達成されたことを意味するものではありません。

 一般に「AI for Science」の導入には、研究開発期間の短縮や実験負担の軽減といった効果が期待されています。NTTは今後、今回の技術を半導体材料や量子材料など多様な材料・装置へ適用拡大するとともに、複数の指標を同時に評価できるAIモデルの高度化を進め、次世代のAI駆動型ラボの実現につなげる考えです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)